【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第3章 対人戦闘訓練
転校生のこの一言に、成り行きを傍観していたクラスメート達の間にも緊張が走った。勝己と出久が幼なじみで、その上何か並々ならぬ因縁があるということは1ーAの生徒全員が周知している。そこはふれてはいけない部分だということを、そこを突くということは勝己の堪忍袋の緒を鷲掴みにすることと同意だということを、転校生だけが知らなかったのだ。
そして案の定、一般市民に絡むチンピラ程度の態度を保っていた勝己の怒気が、積乱雲のように一気に膨れ上がった。転校生の真新しいジャージの襟首を掴み上げ、吠えるように凄む。
「あぁ!? てめェの知ったことじゃねえだろうがよ!! ぶちのめされたくなきゃほっとけクソが!!」
「ぶちのめす?」
しかし胸ぐらを掴まれ至近距離で怒鳴られても、転校生の声は至って落ち着いていた。驚いたように目を丸くして、勝己が今叫んだ言葉を復唱する。本気で言っているのか、とでも言いたげな表情をして。
その口が、わらった。水面に滴が落ちて、その波紋がふわりと広がっていくように、表情が顔全体に広がって不敵な笑みを形作った。瞳からぎらぎらと好戦的な光をこぼしながら、転校生が言う。
「それはどうだろう。ぶちのめされるのはお前の方かも知れないよ」
その言葉に、勝己の表情が変わった。怒気をおさめ、転校生と同じように不敵に笑ってみせる。
「……はァん。なるほどな。上等だ。そういう態度は嫌ぇじゃねえぜ」
勝己は襟首を捻り、突き飛ばすようにして転校生を解放した。後ろに庇われていた出久は、煽りを食らいながらもよろめく転校生を受け止める。
「首洗って待ってろ。転校してきたこと後悔するくらいにボロクソに叩きのめしてやるよ」
そう吐き捨てると、勝己は踵を返して転校生と出久から離れていった。とりあえず一段落した様子を見届け、見守っていたクラスメート達の緊張の糸が一気に緩んでいく。勝己が叫んだので何事かと目を凝らしていた相澤も、二人が離れたのを見ると視線を試合の方に戻した。
どうにか先生からのお咎めもなく事態が収束したので、出久は安心から大きく息をついた。黙って勝己の後ろ姿を見つめる転校生の前に回り、申し訳なさげに謝る。