【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】
第7章 アザミの家
出久は言った。納得させられるようなことが言えたかどうかは分からない。自分はそんなに賢くも、口達者でもない。
知らず目に力が入ってしまっているのか、睨むように見つめてくる出久の視線を、渚はただ黙って受け止めていた。が、すぐに仕方がないというふうにため息をついて、肩をすくめてみせた。
「……成程なァ。同じか」
乾いた笑みとともにこぼれた言葉の真意を、出久は理解することはできなかった。けれど、何かを許された、認められた、ような気はした。渚の品定めをするような鋭い視線が、ほんの少し優しくなったように感じたからだ。
「なら良い。余計な世話だったな。忘れてくれ」
渚は流暢な、しかしやはり甲高い子どもの声でそう言うと、くるりとこちらに背を向けた。
「翔の「秘密」を知る以上、これからおまえと俺たちは少なからず接点ができるはずだ。そん時はよろしく頼むぜ。「伝説の継承者」さんよ」
幼いふくふくした手をけだるそうに振ってそう言い残すと、渚はすたすたと廊下の角を曲がり去っていってしまった。彼の小さな背中が見えなくなると同時に、背後のドアががちゃりと音を立てる。
「お待たせ緑谷!……って……何してんの?」
部屋の中から半ば飛び出すように出てきた翔は、出久の周りに人がいるのをみとめて訝しげに眉根を寄せた。視線を向けられた明と潤が、ほんの一瞬顔を見合わせてから言う。
「なぁんもねえよ。ただ世間話してただけ!」
「自己紹介もかねてね」
「……そう」
答えた翔の声には隠しきれない疑念の色が滲んでいたが、それ以上の追及はしなかった。出久に向き直り、部屋の中を指さしながら言う。
「なぎ……院長と話をつけてきた。会って話がしたいって言うんだけど、良いかな?」
「院長……?」
オウムのように出久が聞き返すと、翔は唇の端をつり上げて笑った。苦笑のような、でも、どこか誇らしげな笑みだ。
「この孤児院の、院長だよ。ぐうたらで、皮肉屋な……俺たちのヒーローだ」