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【ヒロアカ】血まみれヒーローと黒の少年【原作沿い男主】

第7章 アザミの家




「着いたよ」


 桜が言った。路地裏を抜け、雄英の校舎を遙か後方に見ながら坂を下り、繁華街を抜けたその先。古びた家や灰色がかったビルが居並ぶ下町の一画に、それはあった。


 白い壁を纏った、平屋建ての建物。いかにも何かの施設といった風体のそれを、出久の身長の倍はありそうな高い塀がぐるりと取り囲んでいる。正面は黒塗りの門扉が取り付けられていて、その間から中の様子が少しだけ見える。門の手前には赤、青、黄色と様々な色に塗られたタイルの道が横断していて、その先はひらけた土地になっていた。タイヤを半分に割って地面に埋め込んだものがいくつか、ブランコやすべり台、うんていも見える。間違いない、子どもの遊具だ。こじんまりとした遊具が設けられた遊び場を、コの字型に取り囲むようにして白い建物が建っているのだ。


 ここが翔の言う「家」なのか。自身が抱いている「家」に対するイメージとはあまりにかけ離れていて、出久は訝しみながら尋ねた。


「ここは……?」
「孤児院だよ。俺たちの家」


 翔がうたうように言った。孤児院。そこでぴたりと思考が停止した。さまよった視線が門扉の傍の塀に取り付けられた白い館名板を捉える。そこには黒い文字でこう書いてあった。


『特別養護施設 アザミの家』


「俺にはもう、血の繋がった家族はいない。身寄りも。だからここで暮らしてるんだ。桜と翼も同じだよ」


 家族がない。身寄りがない。出久はそれらの言葉を飲み込むのにしばらくの時間を要した。言葉の意味は分かるのに、彼のイメージがそれらとかけ離れてすぎていて両者をうまく結びつけられなかったからだ。


「でもさっき、一ノ瀬くん、いとこって……」
「……ごめん。あれは嘘」


 出久の指摘に、翔は苦笑混じりに答えた。さっき太陽のことを1-Aの皆に紹介した時と同じ、痛みや申し訳なさを無理矢理飲み下して苦しんでいるような表情。出久が直感した通り、彼は嘘をついていたのだ。


「太陽とは血は繋がってない。でも、家族なのは本当だよ。ここにいる皆は全員家族だ」


 翔は門扉に向かって軽く両腕を広げながら言った。彼の言葉には力がこもっていて、そこに嘘が含まれているようには聞こえなかった。

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