第8章 確かな想い
「今の私の精一杯のステージです!」
僕を中心の座席に座らせると、彼女はホールのステージへと立った。
何かを忘れたのか焦ってステージ裏へ走っていく。
その姿が僕の緊張を解いてくれた。
真面目で一生懸命なのに、少し抜けたところもあって、でもそのフォローさえも自分でちゃんとうめて、次にはそこも完璧にこなして帰ってくる。
君の成長が僕を前に進ませてくれる。
君に出会ってそうなった気がする。
ステージに戻って来た彼女の瞳はキリッとしていて、しっかり気持ちも入れ替えて来たように思えた。
少しすると音楽が流れ出し、それとほぼ同時に彼女も動き出す。
よく見ると彼女の口元にはピンマイクのようなものがセットされていた。
予想通り彼女はダンスをしながら、歌い始めた。
元々得意でなかったと聞いている彼女のダンスと歌。
うらたさんが成長したと褒めていたのを思い出すのと同時に、昔と比べて成長しただけで絶賛出来るものではないという辛口コメントも思い出した。
ダンスの出来ない僕から見たら十分なパフォーマンスだと思ったし、やっぱり彼女のあの表情に僕は釘付けになる。
ただ、歌はブレている。
ダンスを同時にしている分、歌に集中出来ていないのがわかる。
ー今の私を見て下さい
うん、これが今の君なんだね。
真面目で一生懸命で努力家
不器用で頭で考えすぎてしまう
それでも前に進もうと抗っている
越えたい壁を越えようと走って走って
ただただ越えるだけじゃなく
飛び越えようとする強さに
僕は…
「まだまだ、私の全てを見て下さいっ 」
「うん、しっかり見てるよ」
僕は…
気づいてしまったんだ、
つづく