第8章 【現パロシリーズ】にじり口【轟焦凍】
こういう席は正直得意じゃない。
主婦会のお姉様に着付けてもらった着物はキツいし、
夜会巻きにした髪の付け根も痛い。
「口付さん、行きましょ」
『あ、はい。』
歩く度に、春の空色の着物がサカサカと音を立てた。
お姉様方に付いて到着したのは
大きなお屋敷の横の小さな茶室。
そのまた小さな扉の名前は【にじり口】と言うらしい。
縦横約70cmの小さな入口に頭をくぐらせると、これはまたこじんまりとした茶室。
むせ返るような畳の匂い。
すべて洋室の我が家では到底嗅げない香りだ。
嫌いじゃない、決して。
お姉様形の上から3番目の場所に挟むように座らされる。
今日から私はこの【茶道教室】に通うことになった。
もちろん自分の意思ではない、誘われて、押されて何となく、だ。
もう既に痺れそうな足先を心配しながら心の中でため息を吐く。
【旦那がダメって言った】とでも言って断りたかったのだけれど、ウチの旦那様は、『主婦会のお友達が…茶道教室に一緒に通いましょうっていうんだけれど…』と相談したとき
「いいと思うよ、外に出て気晴らしにもなるだろう。」なんて、望んでいない優しさを発揮してくれた。
主婦会は家族ぐるみでお付き合いがある。
何せ、旦那の会社関係の奥様方だ、別に好き好んで付き合っているのではないし、下手に嘘もつけない。
厄介だ