第7章 【文スト】Gravity【中原中也】
とても顔立ちの綺麗に整った男の両手が
同じくとても綺麗な顔立ちの女の両手をそっとすくい上げるように握る
横浜の夕暮れに輝く港の側で
そんな二人の姿は、まるで絵画のごとく美しい。
囁かれる言葉を除いて、だが。
「あぁ…ゆりな…美しい人よ
どうか私とこの海の底に共に沈んではくれないか?」
『ヤです』
「そこをなんとか♡」
『無理です』
縋る男に冷たく言い放つ女は
はぁ…とため息を吐いて
握られている手を離そうとした
『てか、太宰さん
任務中に良いんですか?こんな所で遊んでて』
太宰と呼ばれた男は
包帯だらけの顔で首をかしげる
片方しか見えない瞳を見つめると
握られていた両手を引かれて抱きしめられた
「遊んでないよ、私はいつだって本気だ」
黒いコートは、ゆりなを抱きしめた時にフワリと地面に落ちたが、太宰はそんな事も気にせず
くい、とゆりなの顎を指先で持ち上げた
「…君のその美しい唇で、毒を飲ませてくれないか?」
『それで死んでくれるならいいですよ』
「それは、口付けを許可してくれたと言うことでいいのかな♡?」
『……どこまでポジティブなんですか』
遠目には口付けをしていると勘違いしてしまいそうなほど
鼻先の触れ合うような距離感にも、ゆりなはピクリとも動じないのだが
太宰は突然
パッ!と彼女を抱きしめていた両腕を離し、後ずさる
青ざめる太宰の視線を辿って後ろを見ると
そこには、こめかみに血管を浮かべて今まさに黒の手袋を外そうとする恋人…中原中也の姿
「だーーーざーーーーいーーーー
手前…ゆりなに何しやがった……」
怒気をはらみまくった声に、さすがのゆりなも焦った様子で中也の腕をつかむ
手袋を外させるわけにはいかない
汚濁を発動されてはたまらない。
『中也…!何もされてないから、落ち着いて!』
「あ゛!?あの状況見て何もされてねぇだぁ!?信じられるか!!!」
そりゃそうだ、ゆりなは納得するが
『お願い…信じて…』
と呟いて、少し背伸びすれば届く中也の唇にキスをした。