第5章 【現パロシリーズ】cup of tea【物間寧人】
「すみません、大丈夫ですか?」
差し出された手の先に目を向けたその瞬間
私の心臓は、肋骨の中で踊り狂うかのように音をたてて鳴り始めた。
この世に、こんなに好みに当てはまった人が居るのかと思うほど
彼の顔の造形、髪型、服装、表情、声…
仕草に至るまで、全部全部
好み以外の何物でもなかった。
目の前の彼は、白い肌の小顔に、グレーとブルーを混ぜたタレ目。
さらさらの金髪は耳にかかる長さ
薄く笑顔を浮かべた、食えない表情。知的そうな声。
ぽーっと見とれてしまっていると気づいたのは、「あの…?」と彼が言った声で
正気に戻り、差し出された手を握る。
なんでこんな日に限って、手袋をしてしまったのか
直接触れることの叶わなかった指先を恨めしげに見つめて立ち上がらせてもらう。
彼がぶつかってきたことで散らばった資料を拾い上げて渡してくれた。
『ありがとうございます…』
「いえ、ぶつかってしまったのはコチラの方なので」
やっぱり食えなさそうな男だとおもった。
けれど、私はそんな所もどストライクで
彼みたいな人にもっと早く出会っていたら
今の旦那と、結婚をしなかっただろうと思ってしまうほどで…
つい2年ほど前に入籍した旦那にそんな酷いことを考えてしまう。
まぁ、結婚前に出会っていたところで
こんなイケメンに相手されるはずもないけれど…
それに彼はきっと、3つ4つくらいは年下に見えた。
信号が変わったので、『では』と立ち去ろうと
二の腕を、軽く手で触られて、横断歩道を渡るのを阻止される
「あの…お詫びと言っては何ですが
お茶をご馳走させて頂けませんか?」
ケーキの美味しい紅茶屋さんがあるんです。と付け加えられては、こんなに好みの男性からの誘いを…私は断れるほど誠実でもなく
少し視線を外し考えたあと、ゆっくりと頷いてしまった。