第2章 【爆豪勝己】甘い香り【R指定】
ゆらゆらと船に揺られるような感覚
どこかで人魚姫が歌っている
月夜に照らされて
美しい
そんな夢を見て目覚めた、
窓際には、月夜を浴びて歌うゆりな
息を呑む、美しい声に魅せられる
ゆりなは俺に気づいて歌うのをやめた
「ゆりな…」
肩にかけているシーツごと抱きしめる
「悪ぃ…初めてだったんだろ…
なのに、あんな…」
ゆりなはしぃ…と唇に人差し指を当てる
そして、大丈夫だよ、と言いたげな笑顔を向けてくれる
「なんで話してくれねぇんだ?」
理由に察しはついていたが、聞いてみる
「お前…声が個性なのか?」
ゆりなは静かにうなづいた
そして、近くにあったノートを手に取り、書き始めた
【私の個性は《魅了》
私の声を3秒以上聞くと、必ず私を好きになるの
さっき、爆豪くんもかかったよね
どれ位の間効き目があるのか分からないけど…
薬を打ち込まれたみたい心がとろけそうになるって聞いた…】
「そうだな」
【この個性が嫌だったの
私の事をみんなが好きなのは個性のせいだって思って…
だからなくなってせいせいしてた】
【爆豪くんは、私のこと
個性なしで好きなってくれたのに…】
【今は個性にかかっちゃってるもんね
洗脳してるみたいで…ほんとにごめんなさい】
「違げぇだろ」
ペンを握る手を掴む
「オレがゆりなを好きなのは、個性関係ねぇだろ
今だって、オレはオレの意思でお前が好きだ
そんな、軟弱なキモチと一緒にすんな」
『………』
ゆりなのほほに涙が伝う
「だから、オレには聞かせろよ
お前の笑い声も、歌声も、泣き声も
オレを呼ぶ声も全部
お前の個性以上に強い気持ちで、
ゆりなのこと好きでいるから」
『…ばくご…くん…』
「バァカ、勝己だろ…」
声を聞けば、やっぱりとろけそうな程幸せな気分になった
でもそれは、ゆりなの声だからであって
他の奴らの声ならオレは、こんなに幸せじゃないだろうと思った