第11章 ポイントカードはお持ちですか?【モブリット】
「あ…」
ポイントカードを差し出した途端、店員さんは目を丸くして声を漏らす。
『あ…?』
もうポイントが溜まったのだろうか
少し背伸びをして、カードを覗き込むと、その店員さんは突然近づいたことがいけなかったのか少し体を跳ねさせた
「す、すみません…あの…差し出がましいんですが、本日お誕生日…なんですね
おめでとうございます。」
彼が反応を示したのは、カードに書かれた生年月日だったらしい。
一瞬考えて、『あぁ!そうか、今日誕生日か!』と言うと
「え!忘れてたんですか!?」
と更に目を丸くする。
正直、ある程度年を重ねると毎年祝ってられないというか…
そりゃ一緒に律儀に祝ってくれる人が居ればそれもあるんだろうけれど
生憎私にそういう人はいない。
けれど、誕生日なら尚更
今日はこの店に来てよかったなと思う。
このお店は会社からほど近いドイツ料理専門店。
キッチンの神経質そうな小柄な男が作る料理は格別だし
店長も、ガタイが良いイケメンで…癖のない金髪碧眼、時々しか店にいないけれど見れたらラッキーと思ってしまう。
でも、私が何よりこの店を気に入っているのは
今まさに、ポイントカードにスタンプを押してくれる目の前の彼だ。
名札で知った名前は、モブリットさん。
物腰柔らかそうな顔が乗っている体は、厚い胸板も、まくったワイシャツから見える筋の入った腕も大変性的で…正直好みだ抱かれたい。
向けてくれる少し照れたような笑顔がかわいいし、
彼目当てで来ている女の子は数多い。
そう言いきれてしまうのは、会社で後輩達が噂をしているからなのだけれど。