第6章 幕間 エアリス
星の声がきこえる。
エアリスは、浅い微睡みから覚めると耳を澄ませた。
…やっぱり、なんて言ってるか、わからない。
ざわざわとさざめくような。
時折、知っている単語が聞こえたように思っても、すぐに掻き消えて、言葉として繋がってゆくことは無い。
ただ、今は穏やかだ、とか、浮き足立ってる、とか、雰囲気は伝わって来る。
…それが、今朝は……。
「……落ち着かない、感じ…」
肩掛けを羽織り、ベッドから降りる。
カーテンを開けると、まだ昏さの残る地平線に朝焼けの兆しがあった。宵っ張りのここゴーストホテル周辺も、今は閑かだ。
軋む出窓を宥めながら外へ開くと、澄んだ空気が流れ込んできた。
控え目なノックの音がして振り返る。
「……はぁい、」
手櫛で髪を梳かしながら応えると、
「ごめん、リオだけど…、」
気の置けない少年の声がして、エアリスは直ぐに招き入れた。
「ーーそれで? どうしたの?」
部屋の椅子に掛け、ハーブティーのカップに息を吹きかけるリオに話を促す。
リオはちらと視線を上げてエアリスと目を合わせると、頬を膨らませ、ふっと息を吐いた。
「ヴィンセントと寝た」
「ーーえ? リオ。………寝た、って、」
唐突な台詞に思わず瞬きする。
エアリスの反応に、少年の唇に愉しげな笑みが乗った。
「セックスした。めちゃくちゃ良かった」
暫しの絶句のあと、エアリスは眉を顰め、リオをまじまじと見た。
「リオ、あなた…大丈夫なの?」
問う声に滲むのは、非難というよりは様々に気遣う気持ちだ。
エアリスはリオのことが心配だった。
だが当の本人は、
「お蔭で絶好調だよ」
等と、微塵の迷いも無く宣う。
「……まあ、暫くは我慢してたけどさ。体に良くないしね」
少し冷ましたハーブティーに口を付け、美味しい、と呟く。
星の声が…きこえても、
どうすることも、できない…
「そうね……」
エアリスは頷いた。
「ヴィンセントは…どうかしら。……うまくいきそう?」
やはり、どちらかとなれば、自分は完全にリオの方の味方なのだと、エアリスは自覚した。
弟のように想うこの少年が、傷付かなければいい。
「……ま、頼めば抱いてくれるんじゃないかな。無碍にできなさそうじゃない、彼? ……優しいんだよね、」