第3章 ロケット村、渇望
エアリスが目を開け、リオを見つめた。
「大丈夫だから。リオ、大丈夫。…私のこと、信じて」
深い翠色の睛が、真っ直ぐに見つめる。
リオが、詰めていた息を吐いた。
「………信じるよ」
「…良かった」
そう言うとエアリスは、花のように微笑んだ。
そして、更に近付いて囁いた。
「リオ、…キス、してみる?」
「…え、いや……あの………」
「リオ、辛そうだから。なんだかね、可笑しいけど……ふふ、リオのこと、弟? みたいって思うの」
「…弟と、キスする? ふつう…」
ごにょごにょ言う唇に、エアリスの人差し指が触れた。
「人工呼吸だと思えばいいよ」
そーゆーのだとあんま効果無いんだよ、と言い掛け、
「可愛いね、リオ」
ふわりと柔らかい唇に、塞がれた。
触れ合うだけの唇から、懐かしいような、温かな流れが入り込んで来る。
不意に目の奥がツンとして、柔らかい唇が離れていく。
「大丈夫」
白い指先に拭われて、リオは頬を伝っていた涙に気付いた。
「いつか、リオにいい人ができるまで…リオのこと、私が守ってあげる」
「エアリス………"お姉ちゃん"」
言って、二人で笑った。
躰は、渇きを忘れていた。
ヴィンセントは上海亭の看板を見詰めながら、ドアの前に突っ立っていた。中の様子は全く分からない。何度目かの溜息が漏れた。
と、唐突にドアが開き、エアリスとリオが連れ立って出て来て、ヴィンセントは慌てて後退る。
「あ、ヴィンセント」
なに、と訊かれたような気がして、
「いや…」
とよく分からない返事をする。
そこへ、轟音がした。
何かと見る間に音は近付き、ロケットの向こうの空から、茜色の何かが姿を現した。それは一瞬で大きくなり、
「ええっ…?!」
不安定に地面擦れ擦れを飛びながら向かって来る。
その機体にしがみつくものに、見覚えがあった。
「…クラウド?!」
三人を撥ねるすんでのところで茜色の機体は危なっかしく上昇し、直後を、機関銃の音が追い掛ける。
被弾したのだろう、尾翼から黒煙が上がり、小型飛行機は高度を下げながらふらふらと海へ向かい、見えなくなった。
三人は顔を見合わせる。
「…ティファと、ナナキも居たように見えたが」
ヴィンセントがぽつりと言った。