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【FF7 ヴィンセント BL】星の旅

第3章 ロケット村、渇望


水の滴る手の平を見る。
三十年程もの時間が経っているのに、姿形はあの頃のままだった。
時を止めた軀は、それどころかとんでもない魔獣を宿しているのだ。
肌理の整った手指が、酷く歪なものに感じられた。
先程、ヴィンセントの指を汚したことをリオは詫びたが。
「………穢らわしいのは、私の方だ…」
夜の海は昏く、揺蕩っていた。

* * *

翌朝、クラウドが目を覚ますと、テントの中にリオは見当たらなかった。
「っていうか…見張りの交代、呼ばれなかったな」
テントの入り口を開けて外を窺うと、焚き火の始末をする長身の男が目に入った。トレードマークの赤いマントを外していたので一瞬判らなかったが、ヴィンセントだ。
リオは見当たらないが、その辺りに居るのだろう。
取り敢えず安心して、身仕度を整える。テントの中を片付けようとして、グレーのジャケットが目に入った。リオのものだ。
持って出ようと軽く畳んだところで、手が止まった。
昨夜見たリオの華奢な肩甲骨が、脳裏に浮かんだ。
畳んだジャケットをそうっと広げて、テントの入り口をもう一度確認する。
思い切ってジャケットの襟元に鼻先をくっ付け、くん…と嗅いでみた。
「………いい匂い」
甘く誘うような、不思議な香りだ。
もう一度だけ、そのまま鼻から大きく息を吸って、それで終わりにした。

テントから出てみると、先刻は分からなかったが、リオは焚き火の傍の敷物の上に眠っていた。躰には赤いマントが掛けられていて、隣にはその持ち主が座っていた。
「おはよ…見張り、起こしてくれて良かったのに」
近付いて話し掛けると、ヴィンセントが軽く頷いた。
「私が眠くなかったのでな」
「んん……」
リオが身動ぎして、
「…んー…」
ふさふさの睫毛がゆっくり持ち上がった。
現れた銀色の睛が、見下ろしているクラウドの顔を認め、頭を動かして、反対側に居たヴィンセントの顔を認める。
「…はよ…」
半身を起こして、両腕を伸ばしながら大きな欠伸をする。
長い銀色の髪が、朝日を受けて眩い程に輝いた。
(天使か)
心の中で突っ込みながら、
「リオ、」
伸ばされた手に、ジャケットを乗せてやった。
「ん? ああ、ありがと」
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