第7章 僕だけの青いイチゴ
「ねぇ、傘をさすことも忘れるほど、誰からの連絡を待ってるの?」
出来るだけ平静を装って声を掛ける。
『月島君?!···わぁ、びっくりした···』
「びっくりしたのは僕なんだけど。確か、買い物に行くんじゃなかった?なのに、傘もないとか」
チラリと手元を見れば、ホントに傘を持っていない。
『えっと、傘は···どこかに置き忘れたみたいで。今も立ち寄ったお店に聞きに行ったんだけどなかったから』
「ふぅん?それで、何度も確認するほど···誰からの連絡を待ってたの?」
『···月島君、かな?』
僕?
『だって、一方的に連絡入れちゃったから···』
キミはそんな事を気にしてたってワケ?
傘を置き忘れるほどに?
ちょっと···嬉しいかも、とか思ってしまう。
絶対、そんな事は教えないケドね。
「返信しなかったのは、ゴメン。ちょっと電源落としてて気づいたのさっきだから」
『そうだったんだ?···でも、どうしたの?月島君が素直にゴメンとか』
「なっ···」
キミは僕をロボットとかと同じだと思ってるワケ?
僕だって自分に非があれば···謝ることくらいするんだけど?
···ま、いっか。
偶然にも出会えた事に浮かれている気持ちを隠し、敢えて何も反論はしない。
「···入れば?傘、ないんデショ?」
そう言って傘を傾ければ、躊躇うキミ。
『えっ?でも···』
「買い物、これからなら付き合ってもいいって言ってるんだけど」
天邪鬼に素っ気なく言ったのに、嬉しそうな顔を全面に出して、ありがとうと僕の隣に立つ。
「なんか、まるで···」
『ん?なに?』
ピコピコと尻尾を振る、仔犬みたい。
「別に?」
思わず口に出しそうなワードを胸の奥にしまい込み、どの店に行けばいいの?なんて背中を押しながら歩き出した。
ひとつの傘に寄り添う様に入る僕達。
はたから見たら、それも街中を歩くカップルのように見えるんだろうか。
ホントは、全然違うんだけどね。
キミに気付かれないように、フッ···と鼻で笑いながら、人混みから守るようにそっと傘を持ち直した。