第7章 僕だけの青いイチゴ
「僕は平気。その心配はいらない。家に帰れば、どうしようもなくおひとり様の兄貴が楽しくケーキ作りしてるからね。だからさ、早く食べなよ?ほら?」
『えと、じゃあ···』
迷いながらも、柔らかそうな唇が僕のフォークからパクリと食べる。
「どう?」
『お、おいひぃ···です』
菅「あぁっ!!」
騒ぐと思ったよ、絶対。
でもそんなの計算のうち。
何食わぬ顔で僕もケーキを掬って口へと運ぶ。
菅「マジか···月島め···春華ちゃん、オレのもあげる!はい!」
二番煎じなんて、ムダだって。
『いえ、大丈夫です。菅原先輩が召し上がって下さい』
「だ、そうですよ、菅原さん?」
悔しがる菅原さんにチラリと冷たい視線を投げて、残りをたいらげる。
「ねぇ、もし良かったら···この後ウチに来る?」
『別に予定はないけど···でも···』
「だったらおいでよ?やたら気合いばっか入ってる兄貴の料理、一緒に食べよう。おひとり様の兄貴だって、女の子が食べてくれるなら冥土の土産になるし」
『でも、いいの?家族水入らず···なんじゃないの?』
「こんな日に男二人でいる方がどうかしてるデショ?」
行くよ、と声を掛け伝票を掴んで立ち上がる。
『あっ、待って』
僕の後を追いかけてくる足音に耳を傾けながら、スマートに会計を済ます。
僕達はまだ、ただの部活仲間。
それ以上でも、それ以下でも···ない。
でもね?
僕次第で、それはどうにでも変わると思うんだよ。
実り始めたイチゴは、まだまだ青くて甘さのカケラもない。
だからこれから、僕が甘くなるように。
大事に大事に···育ててあげる。
『わぁ···街が真っ白···』
「ホント、飽きずによく降るよ」
来た時と変わらず傘はひとつ。
ただ、さっきと違うのは···
「行くよ、雪に埋もれないようにもっとコッチおいでよ」
···キミとの、距離。
ハラハラと舞い落ちる雪の中を、ふたりで歩き出す。
食後のデザートは、イチゴにする?
それとも?
イチゴのように甘い···キミの唇にしようか?
···それはまだ、早いよね。
どうやって僕だけの青いイチゴを熟させようか、それを考えながらコートの襟を正し、歩いていた。
~END~