第7章 僕だけの青いイチゴ
明「蛍~?これからケーキ作るんだけど、一緒にどう?」
ノックもなしにドアを開けて顔を出す兄ちゃんに、さらに眉を潜める。
「勝手に一人で作りなよ。だいたい、なんで僕が一緒に作らなきゃいけないの?僕が手伝ったら、楽しみが減るだろ」
明「そんなに楽しみにしてくれてるのか?!···って、アレ?どこか出かけるのか、蛍?」
コートを羽織りマフラーを巻く僕を見て、兄ちゃんが言う。
「僕がどこへ出掛けようと、関係ないデショ?」
明「雪降ってるし、出掛けるなら送ろうか?車あるし」
「いらない、散歩してくるだけだから。兄ちゃんはケーキ、よろしく。言っとくけど、僕···ケーキの味にはうるさいから」
玄関まで付いてくる兄ちゃんにそう言い残し、外へ出る。
「寒ッ···こんな日に出掛けたがる山口も、買い物へ出る池田さんも···ありえない」
そんな事を言いながらも、僕だって外へ出てるんだけどね。
あてもなく···いや、なくはないんだケド。
キラキラと煌めき、華やぐ街中を歩く。
あちこちにカップルがいて、やけに鼻につく。
···クリスマスだしね。
そんなにベタベタくっ付いてたいなら、家とかでベタベタすればいいじゃないか。
そんな悪態まで浮かんでは消える。
来るんじゃなかった。
どうせ偶然バッタリ会うみたいな展開なんて、ドラマや映画の中だけで、実際あるわけないし。
返信も寄越さない僕に、池田さんが現れるわけないんだよ。
バカバカしい、帰って暖まろう。
帰れば帰ったで、うるさい兄ちゃんがいるけど外で凍えるよりはマシだからね。
歩いて来た道を引き返すために、クルリと方向転換をして進み出した。
『ありがとうございました』
聞き覚えのある声に、進みかけた足が止まり···振り返る。
······いた。
深々と降る雪の中をスマホを何度も確認しながら傘もなく歩き出した、ひとつの影。
追いかける事もせず、ただ、見てる。
するとやはり、傘がないからかすぐ隣の店の軒下に体を滑り込ませて···また、スマホを眺め始める。
雪、朝から降ってたよね?
なのに、傘がないとか···馬鹿デショ。
そんな事を思いながらも、僕の足は彼女の方へと歩き出した。