第1章 私はもう疲れたよ
『夕切凪沙です。
夕陽を二つに斬ったからこの名がついたとなっていますが、実際には斬ってませんから。
たまたま雲のでそう見えただけなんですよ。
でも、切れ味には自信があるのであしからず』
私が顕現されたのは、本丸が設立されて最初の頃だった。
5振り目の顕現で、
当時の主は、私のような女が来たことに加え、れあ?と呼ばれる類いの刀が来たことに歓喜し、涙の大洪水を起こした。
「貴方って3年やっても出ない人は出ないレア中のレアなんですよ!?!?」
『は、はぁ・・・』
すごい熱弁されるが、
全く内容が理解できない私は混乱するばかりだったが、
熱心に私の存在価値を説き、時折笑顔を見せるその主の姿に、
自然と私の心は溶かされていた。
『ハハッ・・・面白い方ですね。
お力になれるよう尽力します。どうぞ、よろしく』
そして数ヶ月経ち、
主の近侍を勤め始め、
本丸のあれやこれやを覚えたころ、
あの男が顕現された。
「僕は燭台切光忠。青銅だって切れるんだよ?・・・うーん・・・。やっぱり格好つかないなぁ・・・」
とんだ伊達男が来たもんだと、
私と主は二人してあんぐりと口を開けたものだ。
そんな私たちを見た燭台切光忠は、
「ハハッ!なんて顔するんだい。愛らしい顔が台無しだよ」
と、
あまりにも幼い顔で笑った。
主はどうだかわからないが、
少なくとも私は、火縄銃で心臓を打ち抜かれた感覚に陥った。
当時の私には現代で言う”ときめき”というもを知っているはずもなく、
その後死ぬのではないかと真っ青な顔で薬研に相談したものだ。
「姉御、そりゃあ恋だぜ」
『鯉?池にいる?』
「ちげーよ。
まぁ、あれだ。姉御は燭台切の旦那を好いているっつーこった」
幼い姿をしている割にはずいぶんと男らしい口調である薬研にそう言われ、
私の中の時間は数秒制止した。
『スイテイル?』
「それも一目惚れ」
『ヒトメボレ』
「あ、一目惚れっつーのは、一目見て惚れちまったことな」
落雷が私の頭に落ちた気分だった。