第4章 6月『緊張』
「あ、何すんだよ瑞希!」
兄さんは僕が取られたと思っているのか
瑞希を慌てた様子で見る。
「ん………。」
瑞希はまた笑って、
『がいると
答え聞いちゃうから没収。』
と言った。
「……僕そんなことしないよ。」
一応弁明するものの、
瑞希は僕を抱っこしたまま離さない。
ちらりと下を見るが、
いつもより高いところから見下ろす床は
落ちたら痛そうだ。
僕が瑞希の首に手を回すと
瑞希はまたにやにやと笑う。
何が楽しくてこんなこと……。
「よし、じゃあな、一。」
「ええっ、ちょっと待てよ翼!
マジで置いてくのかよ!」
「当たり前だ!俺達は
お前らがイチャついてる間に
補習をしたんだぞ!」
「いちゃ………つく?」
僕が首を傾げると、瞬が呆れたように言う。
「……はぁ。気にするな。
というか、覚えてないんだろう、
いつもの様に。」
「………………多分。」
確かに先程の記憶が一切無い。
僕は兄さんと何かをしでかした事は
確かだけど。
「じゃあなー!ナギ。
せいぜい頑張れよーケケケッ」
キヨが一番に出ていき、
他の皆もバカサイユを出ていった
僕は瑞希に抱かれたまま強制送還。
「兄さん、また明日ね。」
半泣きの兄さんと南先生を置いて、
僕も瑞希と共に部屋を出た。
「瑞希、おろして。」
バカサイユの玄関
瑞希に声をかけるものの、
瑞希は下ろしてくれない。
「……………………。」
何も言わないけど、顔に嫌だ、と書いてある。
「……おろしてやれ。」
そこに、翼が助太刀してくれた。
瑞希は翼に言われて渋々、と言った様子で
僕を下ろした。
皆それぞれ傘をさして外に出た。
翼は永田さんに傘を指してもらっている。
「永田、車を出すぞ。
澪を家まで送っていく。」
「かしこまりました。翼様。」
「ありがとう、翼。」
「ああ。気にするな、ついでだ。」
翼が帰るということで、
皆もそれぞれ解散となった。
僕は翼の隣を歩く。
「………全く、鬱陶しい雨だな。」
歩く度に雨音は鳴り、靴を濡らしていく。
「………明日は止むといいね、雨。」
傘を少し上げて空を見上げる。
空は曇天で、太陽なんて欠片も見えなかった。