第2章 4月『沈黙の少年』
「ねぇ、今日はハジメ先輩、ストリートに
行く予定ある?」
「ないと思うよ、今日はバカサイユで
どんちゃん騒ぎだろうし。」
バカサイユでバカ騒ぎだけに収まらず、
去年同様シンガポールやらハワイやらに
ジェット機でひとっ飛びするかもしれない。
流石に明日には帰ってこれるように
翼を制御しなきゃいけないな。
「なんだ。つまんねぇの。
バカサイユバカサイユって…
そんないいのかよ?」
ムッスーと頬を膨らましていう坂下。
きっとこれが可愛らしい女子だったら
皆釘付けなのだろうが、如何せん彼は男。
しかもこのあくどい性格を知っているからか
誰も見向きもしない。
「そりゃあ、勿論。
バカサイユの居心地最高だし。」
バカサイユはいい所だ。
勿論色々違反している部分はあるけれど、
学校という社会から遮断された
一つの退避場所になっている。
B6もそれぞれ事情があるわけであって、
彼らはそんな世間の目から逃げるように
バカサイユに集まっている。
そして……兄さんと僕も、その1人。
兄さんの…あの暴力事件があって以来
兄さんは変わってしまった。
…だとしても、兄さんが本当に
人を殴るなんてありえない。
兄さんの事信じているからこそ
その話が出るとどうしても突っかかってしまう
そのせいか兄も兄なら弟も弟…というように
僕まで避けられてしまうようになった。
僕はあまり気にしていないのだが、
兄さんは自分のせいだと
責任を感じているようで。
兄さんと翼が仲良くなってからすぐ、
何かとB6の遊びに誘われるようになった。
B6のみんなも僕の状況を
知ってか知らずかすぐに受け入れてくれて、
お陰様で仲良くやらせてもらっている。
そんなこんなで、
僕にとってもバカサイユは
居場所のないこのClassAの中で
唯一の逃げ場となっているのだ。
「なぁ、今度俺もバカサイユに
入れてくれるように頼んでみてくれよ。
ハジメ先輩の後輩って事でさ。」
「それくらい自分で言いなよ。
…どうせ一蹴されると思うけど。」
バカサイユに他の奴らを入れるなと
言っているのは翼だ。
その翼が、この小悪魔的な坂下を
入れるはずがない。
翼は、馬鹿だけど、そういう人のなりは
なんでもお見通しだから。
きっと坂下の考えていることも
すぐにバレてしまうだろう。