第2章 4月『沈黙の少年』
「いってきまぁす。」
朝、自宅の鍵を閉めて家を出る。
父も母もいない僕の家は
いつも静かだ。
いるのは、僕が出かけてから来る家政婦のみ。
家から出て道を見渡すと、
見慣れた自転車が見えた。
「兄さん。」
そう呼びかけると、手を振って答えてくれる。
「、おはよう。」
「おはよう、兄さん。」
茶髪の髪をふわりと揺らして、
兄さん…草薙一は僕に笑いかけた。
僕が自転車の後ろに乗ると、
兄さんは学校へと自転車を漕ぎ始めた。
こうしてまた一日が始まる。
学校に着くと、僕と兄さんはすぐに分かれる。
3年生である兄さんと2年生の僕の教室は
階が違うからだ。
「じゃあ、また後でな。」
「うん。バカサイユで。」
今日は始業式。
短かった春休みも終わり、
また新しく一年が始まる。
…はやいものだ。今年で兄さんは卒業なんて。
かけている眼鏡を少しあげる。
ちなみに兄さんの担任は誰になったんだろう。
確か、去年の担任は1週間で辞めたから、
いなかったはずだよね。
……見つかったのかなぁ。ClassXの担任。
2-Aとかかれたクラスに入る。
ここが、僕のクラスだ。
兄さんはClassXだけど、僕はClassA。
兄さんと違って僕は頭が良い。
良い…というか、勉強に力を
入れているか否かと言った方が
近いと思うけど。
兄さんもちゃんとやれば、
Dクラスに入れると思うんだよね。僕は。
「、おはよ。」
席につくと、紅い髪が目の前にふわりと現れた
「坂下…おはよう。」
彼は同じクラスの坂下。
紅い髪、蒼い目、女顔がチャームポイントだ。
「二年連続で同じクラスなんて
俺達親友になれるかもな。」
「親友も何も、坂下が仲良くしたいのは
僕じゃなくて兄さんでしょ?」
「チェッ…バレたか。」
坂下は僕の言葉に肩を落とした。
坂下は兄さんに物凄く憧れていて、
兄さんに少しでも気に入られようと
あれやこれやとしている。
その坂下にとって、僕は目の上の
タンコブのような存在なのだろうが、
僕といれば兄さんに会う確率は格段に上がる。
だから、僕と行動を共にする事が多い。
つまりは、僕と坂下は友達というより
ただの同級生だ。