第4章 6月『緊張』
その時、廊下に足音が聞こえ、
ガラガラと扉が開く。
「なんだ、もう来てたのか。」
顔を上げると九影先生が
理科室に入ってきた。
僕はむくりと起き上がって椅子を直し、
教科書とノートを広げた。
その間に九影先生は僕の反対側に座る。
「…準備万端じゃねぇか。やる気満々だな。」
「…いえ、早く終わらせて、
バカサイユに行かないといけないので。」
「…お前さ、本音と建前って言葉、
覚えた方がいいぜ。」
九影先生が僕のノートを元に
つらつらと説明していく。
やっぱり聖帝でベテランやってるだけあって
とても分かりやすい。
「……って感じだ。分かったか?」
「はい。」
「んじゃあ、これとこれ、解いてみろ。」
言われた問題をさっき教えて
貰った通り、解いていく。
シャーペンを動かし、いくつかの
計算を解いていくと、
それを見て九影先生がため息をついた。
「…お前の兄貴もこのくらい
ちゃんと出来ればなぁ。」
「…兄さんも、ちゃんとやれば出来ますよ。
少し、忘れっぽいだけです。
………何回も同じ事を教えてあげれば、
ちゃんと覚えられます。」
「流石、15年以上一緒に過ごしてきた弟は
言うことが違うってか。」
九影先生はそう言って笑う。
兄さんの忘れっぽさはちょっと異常で…
しかも、人の名前にトコトン弱い。
今回も南先生の名前を覚えるのに
かなりの時間と日数がかかっている。
でも、忘れる度にちゃんと教えてあげれば
少しずつ覚えていく。
だから、兄さんが忘れないよう、
僕が逐一教えるようにしている。
「………できました。」
「お、やるじゃねぇか。」
僕のノートを見て満足した九影先生は
僕の頭をガシガシと撫でた。
「………わっ」
兄さんよりも大きくて強い手が僕の髪を包む。
「じゃ、補習は終わりだ。」
そう言って九影先生はまた笑った。
パッと見は怖いけど、やっぱり
九影先生は優しい。
それに身長も高くて羨ましいし、
僕は結構好きだ。
瞬は嫌いみたいだけど。
「……ありがとうございました。」
僕もぺこりとお辞儀をして理科室を出た。
さて、バカサイユに向かわなければ。