第3章 5月 『以心伝心』
「…………先生。」
「わぁっ!!な、な、な、なに!!?」
「…………考える時、
口閉じた方がいいですよ」
しまった!また読まれたっ!
思わず両手で口を塞ぐと、
冷たいジト目でこちらを見る。
「……………………。」
「…いや、ごめん。
やっぱ昨日の事、気になってさ。
思い出したくないのは分かるけど、
…心配、だし。」
「……………そうですか。」
は俺から目を外して前を見る。
その様子は昨日の不安そうな顔の面影はない。
俺の思い過ごしだったかなぁ…
昨日、すごく思い詰めた感じだったのに。
「……………大丈夫。」
「え?」
「……僕と兄さんは、大丈夫。」
俺に視線を合わせないの目は
真っ直ぐ前を示していた。
それは、大丈夫である、というよりも
大丈夫だとそう思っていたい、
という希望のようにも見えた。
「……なんかあったら相談しろよ。
俺…なんでも聞くから。」
その言葉に考え無しに呟くと
は驚いたように俺を見てから、
また目をそらした。
「………………気が向いたら……。」
「…き、気が向いたらって……。」
それ、いつだよ……。
俺の考えを他所に教室についてしまう。
もうすぐ予鈴だ。
は席について、準備を始める。
今日はいつも通りの朝。
もいつも通り。
…………昨日の夕方だけが、異常……か。
昨日のの姿が頭に離れないまま、
俺は早めのホームルームを始めた。