第3章 5月 『以心伝心』
廊下を曲がると、
生徒が何人かもみ合っているように見えた。
「いつまで馬鹿な弟にしがみ
ついているつもりか?…ククッ、滑稽だな。」
「…貴様ァ…!!」
廊下に罵声が響く。
あれは、岡崎と草薙じゃないか。
2人は睨み合いをきかし、
今にも掴みかかりそうな勢いだ。
そして、草薙の隣には……
「………ッ」
草薙の服を小さな手で握り、
喧嘩を見守るがいた。
「フン、お前もそうやって
頭が空っぽな兄貴の後ろに
ずっと隠れているつもりか?
本当に兄弟揃って馬鹿のようだな。」
「黙れェエエエ!」
草薙が岡崎の胸ぐらを掴む。
岡崎はにやにやとこの状況を
楽しむように笑った。
…草薙は怒りが心頭に達しているのか
俺達が向かっているのにも気付かず、
岡崎を睨みつけた。
「兄さん、やめて……。」
「…………ッ、……」
の震える声が廊下に響く。
岡崎を掴む、草薙の動きが止まった。
「はいはい、喧嘩はその辺に
しておきましようね。」
「これ以上の乱闘は許しません。
それぞれの教室に戻り、
速やかに下校しなさい。」
二階堂先輩と衣笠先生が
2人に呼びかけると、
草薙はやっと気付いたようで
岡崎の胸ぐらから手を離した。
「……チッ…」
「フン…………。」
「…………………。」
岡崎は最後に草薙を睨んで去っていき、
その場には、草薙兄弟が残される。
先に口を開いたのは、兄の方だった。
「……。」
「…………?」
「……帰るぞ。」
「……うん………。」
草薙はの手を掴み、
歩いていく。
草薙の足は速くて、
身長の低いは
小走りで必死について行っていた。
「……………………。」
声をかけようかと思ったが
かける言葉が見つからず、
そのまま見送った。