第3章 5月 『以心伝心』
「それにしても草薙の事で、
なんで斑目が怒るんだよ?」
「ああ、真田先生は知らないかも
しれないけど瑞希は………っていうかさ、
『草薙』って変じゃね?」
「え?今までこれだっただろ?」
「んーなんかしっくりこねぇ。
大体、俺もも『草薙』じゃあ
ややこしいだろ。
別に、でいいじゃん。
なぁ?。」
草薙……の兄貴の方が聞くと、弟は俯いて、
ボソボソと喋る。
「…………別に。」
それを聞いた草薙がにこりと笑った。
「先生、名前で呼んでも良いって。」
「えっ、いいの?今のはOKなの!?」
「そうだろ?な?」
「…………………。」
「ほら、別に良いって言ってんじゃん。
先生、試しに呼んでやれよ。」
「えええ!!?いつ言った!?」
流石アニマルマスターの草薙一率いる
草薙兄弟。
斑目の言葉が分かるのと同様、
兄弟の意思疎通の仕方も
俺の想像を遥かに超えている。
その兄弟の輪にはいつも入れないが、
草薙に近付くためには理解しなきゃ
前に進まない。
俺は草薙兄の指示通り、
草薙の弟の方……、いや、
を名前で呼んでみる。
「あ…えっと、…………?」
そう呼ぶとはちらりと俺を見て、
またすぐに目を逸らした。
「………………なに。」
耳まで真っ赤な澪にこちらも
ドキマギしてしまう。
まるで、好きな人に告白したような、
そんな感覚。
「くぁああ〜!かわいいぜ!
やっぱは世界一可愛い!
真田先生もそう思うだろ?」
次の瞬間、が視界から消え、
草薙兄の元へうつる。
よしよし、と頭を撫でられながら
草薙に抱き締められているは
ぎゅう、と草薙に抱きついている。
なんだか、動物をあやしている飼育員を
見ているようだ。
「あー…まぁ、確かに、そうかも、な。
は、ははは……」
その抱擁は10分ほど続き、俺はその間ずっと
いかにが可愛いかを彼の兄から
聞かされて終わってしまった………。