第3章 5月 『以心伝心』
(真田視点)
朝、早めに来て、校門をゆっくり歩いて
生徒達に挨拶をしながら待つ。
少しすると、向こうから似た顔が大小2人、
並んで歩いてくるのが見えた。
「おっはよーう、草薙兄弟!」
笑ってその二人に駆け寄る。
兄の方は笑い、弟の方は眉間にシワを寄せた。
「あ、はよっす真田先生。今日も元気だな。」
「おはようございます。
……僕なんかにご苦労様です。」
「へへっ、挨拶は大事だし、
それに俺の生徒に挨拶すんのは普通だろ?」
にこりと笑ってみせると、
草薙はフイッと顔を背ける。
もうその冷たい視線にも行動にも慣れっこだ。
草薙と距離を詰めようと思った俺は
とりあえず朝と夕方、草薙に
話しかけることから始めた。
毎朝校門から教室まで話して、
放課後バカサイユに行くまで話す。
勿論、俺も教師だし、
絶対毎日続けているというわけじゃないけど、
時間が空いた時には必ず
話しかけるようにしている。
「はは、凄い執念だよなぁ真田先生。
瑞希も魔剣にワシ寄せまくりだったぜ。」
「………ん?おい草薙。
それを言うなら眉間にシワじゃないか?」
「あ、そうそう!それそれ。」
「魔剣にワシ……魔王っぽい。」
「いや、瑞希は魔王っていうより泉の神だろ。
『貴方の落としたのは……
金色のトゲーですか……
銀色のトゲーですか………ぐう…』
みたいな感じで。」
「結果、何も返してくれなさそうな
神だな…。」
そうやってほぼ毎日接するようにして
もうすぐ1ヶ月だ。
そのおかげか、草薙兄の方は大分楽しく
会話できるようになった。
それにつられて、弟も
ポツリポツリと喋る事が多くなり、
なんとなく3人での会話を楽しんでいる。