第12章 1月 『解け始めた氷』
「トゲー…」
瑞希が見えなくなると、
トゲーは寒いのかモゾモゾとマフラーの中に
入ってしまった。
「……暖かい飲み物でも買ってこよっかな。」
僕も瑞希ほどじゃないけど、体温低いし…
僕が寒いと、トゲーも寒いかも。
僕がそう言って自販機を目で探すと、
長い紅の髪が舞った。
「……何してる、キョロキョロして。」
「……あ、瞬。おはよ。」
僕を見て目を細める瞬。
……少し、眠そうだ。
「自販機、探してて。」
「……はぁ?自販機?
なんでわざわざ飲み物を高い所で買うんだ。」
「……だって、寒いし。」
「寒いと分かってるなら
家から持ってこい。
じゃないと、高くつくだろう。」
「………ごめん。」
僕が肩をすくめると、
瞬がへの字口で鼻で笑う。
「………フン。
30分もすれば、駅前のスーパーが開く。
そこで買えばいいだろう。
あそこは中に売店もある。
飲みたかったら、そこで飲め。」
「分かったよ。」
僕が頷くと、瞬がフゥ、と息を吐いた。
「……俺達が、勉強に一生懸命に
なる日が来るなんてな。」
「………うん。正直、勉強したいから
教えて欲しいって、兄さんが言ってきた時は
驚いたよ。」
センター試験一週間前から、
B6で集まって勉強会を始めた。
皆やりたい教科はバラバラだったから、
南先生だけじゃ足りなくて僕も勉強会に
付き合った。
兄さんもみんな本当に一生懸命で驚いた。
分からないとか出来ないとか
みんな文句は言うけど、
誰一人もう辞める、帰ると
投げ出さなかった。
去年だったら、
一分足らずでみんな投げ出してたのに。
これも南先生のおかげなのかな。
……………すごいな、先生って。
「……?」
「……あ、ううん。……なんでもない。」
瞬の声で我に返る。
首を振って瞬の顔を見上げる。
………そろそろ、時間かな。
「………試験、頑張って。
応援してるから。」
「……………サンキュ。」
瞬が僕の頭を撫でて手を離した。