第12章 1月 『解け始めた氷』
「……………。」
「トゲトゲーッ!」
兄さん達が見えなくなったところで、
肩を叩かれる。
その触れられた肩から、トゲーが降りてきた。
「おはよ、瑞希、トゲー。」
「…おはよう。」
「トーゲー。」
僕の肩にトゲーが乗る。
トゲーは嬉しそうに鳴いて、
僕のマフラーにもごもごと入り込んだ。
「トゲー…よろしく。」
「うん。」
僕が返事をすると、瑞希が首を振る。
「…違う。トゲーに言った。」
「トゲ!トゲトゲー!」
トゲーは僕のマフラーから顔を出して
小さな手を瑞希に振っている。
『の事は任せて!
トゲーが守ってあげるから!!』
………と言っている。
むむぅ………トゲーを預かるのは僕の方なのに。
「…………うん。お願い。」
瑞希がそれを見て少しだけ笑う。
瑞希は最後の最後、ギリギリまで
センター試験は受けないと言っていた。
だが、そのせいで南先生の退職が
確定すると知った瑞希が
急に受けると言ったらしい。
瑞希は天才である事を皆に隠している。
………大丈夫かな、瑞希。
「………心配しないで。」
僕の想いを汲み取るように
瑞希が僕の頭を撫でる。
「ちゃんとやるよ…。」
「……ん。」
瑞希の『ちゃんと』の意味が
どちらに転ぶのかは僕には分からないけど。
瑞希はどうするか、決めているみたいだ。
「………いってくる。」
「いってらっしゃい。」
僕が手を振ると、
瑞希も軽く手を振って、僕に背を向けた。