第12章 1月 『解け始めた氷』
「………で、何?話って。」
武川君に呼ばれて、人気のいないところに
連れていかれた。
ここは校舎裏で、薄暗いゴミ捨て場の近く。
ここを通るのは、用務員のおじさんくらいしか
いないだろう。
これじゃあ山田さんのランチに遅れちゃうな。
さっき坂下と別れた後、
兄さんにメールしとけば良かった。
「あの………草薙先輩の……」
「…うん。」
「去年の……あの事で、あの、ちょっと。」
「…………。」
「…えっと………あ……その…。」
武川君は僕に話しかけようとして、止まり、
またもぞもぞと喋って、止まっている。
僕も人前でステージで喋る時は
こんな感じなんだろうなと思いつつ、
黙って彼の話を待った。
「…………。」
「……草薙先輩が…さ、
…濡れ衣だって……その。」
「………。」
「………い、いつ…知ったのかなって…。」
………なんだ。そんな事か。
さっきの坂下との会話を聞かれてたからかな?
「………兄さんから聞いた。
…そんな事だろうと思ってたけど。」
「…まさか…最初から…、気付いていたのか?」
「……途中から。
君が生徒会に引き抜かれてから…変だなって」
あの事件があって、
僕が反発した事により兄さんの共犯者として
僕まで事件の犯人だと噂が立ち、
僕はなんの反論もできず
生徒会を辞めさせられた。
そしてそのすぐあと、
僕の後釜として入ったのは
骨折した武川君だった。
「……でも、僕は信じてなかった。
武川君が岡崎の仲間になるとは思えなくて…。
…………まぁ、違ったけど。」
「…ごめん…。」
「…謝ることない。
僕も兄さんもあの頃は必死で………。
深く考えてる暇、無かったから。」
あの頃は…学校に行けば、
兄さんを見て距離を置いたり、
ヒソヒソと話をしている人がいたり。
それが、四六時中行われ、
大好きなサッカーも奪われ、
信頼していた仲間からも裏切られ、
兄さんをどんどん追い詰めていった。
僕も助けようとしたけど、
………僕が周りをかけ回ればかけ回る程、
僕に白羽の矢が立つ。
それを見た兄さんの逆鱗に触れて
声を荒らげて、また噂がたつ。
……逆効果、だった。