第12章 1月 『解け始めた氷』
僕はサッカー部には所属していなかったが、
兄さんがいたから、練習を良く見に来ていた。
あの日の居残り練習も……見ていた。
岡崎が、
兄さんの足を故意に怪我させたことも、
兄さんが岡崎を庇ったことも。
僕はベンチから見ていたんだ。
翌日、兄さんが大事をとって
入院していたから、僕は両親の代わりに、
学校を休んで病院に行っていた。
その間に、こんなに大きな事件に
なっていたなんて、知らなかった。
僕は兄さんと一緒に無実を主張したが、
兄さんに脅されて嘘をついていると
武川君に言われて、僕の意見は
却下されてしまった。
勿論、当事者の兄さんも…同じだ。
でも、兄さんのその傷は、今やっと
塞がりかけている。
「やっと、元の兄さんが戻ってきてるんだ。
………邪魔、しないで。」
「……やっぱり、あの馬鹿教師のせいなの?」
「そんな言い方しないで。
南先生は、いい先生。」
「………あんな馬鹿教師、いない方が
イイじゃんか。
、なんとか出来ないの?
ほら、真壁財閥の力を使えば出来るでしょ。
去年、俺達のクラスの担任
自主退職させたの、だろ?
あれみたいに、退職でいいから。」
「ふざけないで。
僕もB6も、そんな事望んでない。」
「………ったく、肝心な時に
役に立たないよな、は。」
「役に立たなくて結構。
とにかく。南先生に手を出したら…
許さないから。」
「…………チッ」
僕が坂下を睨みつけると
坂下を一通り睨み返した後、
踵を返した。
坂下、何か馬鹿な事しでかさなきゃ
いいけど…………。
僕も踵を返すと、
おずおずと弱気そうな生徒が
僕に話しかけてきた。
「…………あ、あの、草薙、君。」
「………君は、確か…………武川、君?」