第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「…………兄さんのところからは
離れたりなんかしないよ。」
「……………!」
「……この先、他に友達が出来ても、
……遠くに離れても。
兄さんとは、いつもどこかで繋がってる。」
兄さんの手に、僕の手を重ねる。
「…だって……兄弟だから。そうでしょ?」
僕がそう言って兄さんに寄りかかると
兄さんは重ねた僕の手をやさしく繋ぐ。
あ、恋人繋ぎだ。なんて事は、
心の隅に置いておく。
「…ありがと…な。」
兄さんが望んでいた言葉を並べると
兄さんは笑った。
兄さんの気持ちの奥底にあったのは、
僕を失う不安。
それがきっと、今回の喧嘩の原因だろう。
『…………何処にも行くなよ、。』
文化祭の時に聞いたあの言葉は
そういう意味だったのかと思い出す。
………あの時、ちゃんと
その言葉の意味を理解していれば、
こんな事にはならなかったかもしれない。
「…………手術、まだかかりそうだね。」
空は雨が上がり、晴天に戻っていた。
冷たい風が吹いて、枝の先に付いた水滴を
ポタリポタリと落とした。