第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「…さん、
着替えをお持ちしました。
応接室を一室お借りしましたので、
こちらにどうぞ。」
「…あ、永田さん、サンキュ。」
兄さんに連れられて、応接室に入った。
カーテンで仕切られた部屋は
いろんな医療器具が置いてある。
「…………っくしゅん。」
「ほら、着替えるぞ。」
兄さんに言われて、上着を脱いだ。
「…………寒い。」
濡れた制服は脱いだものの、
体の寒気が取れずにそう呟くと、
兄さんが僕を近くに引き寄せた。
「あー、永田さん。暖かい飲み物、あるか?」
「ええ。ココアをお持ちしました。
さん、どうぞ。」
「………ありがとう。」
永田さんからホットココアを貰い、
椅子に座って1口飲む。
ココアはじんわりと僕の体が温めた。
「草薙さんもどうぞ。」
「お、マジか。ありがとな。」
兄さんも、ココアを手に、隣に座った。
「…………あったまる。」
「……だな。」
火傷しないよう、1口ずつ飲む。
ココアは暖かくて、濃厚で、美味しい。
その温かさが、ゆっくりと僕の心を
紐解いていく。
「……僕、初めて兄さんの気持ちが
分からなくなった。今まで、
全部分かってるつもりだったのに。」
「………。」
兄さんは少し黙った後、
ぼそりと呟いた。
「………俺も自分が何考えてんのか
分からなかった。
にあんな事、
言うつもりじゃなかったのに…気付いたら
口走ってた。全部。」
「………そっか。」
それを聞いて、少しだけ安心した。
やっぱり、僕は兄さんの
気持ちが分かっていたんだ。
それが、『分からない』っていう気持ち
だったから混乱しただけだったんだ。
「…ああ。………ごめんな。」
「ううん。」
僕は首を振った。
今だって、兄さんの謝りたい気持ちも、
悲しい気持ちも、
僕と居て安心してる気持ちも
全部伝わってくる。
それで、十分だ。