第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「至急、手術にうつります。
完治するかどうかは分かりませんが、
命に別状はありませんので
安心してください。では。」
「………よろしく、お願いします。」
あの子の羽の骨はやはり怪我をしていて、
骨が折れてしまっていたけど、
命に別状はないらしい。
とにかく、死ぬわけじゃないと
知ってホッとして、息を吐いた。
「……………はぁ。」
急いで翼のリムジンに乗り込んで、
近くの動物病院に駆け込んだ。
僕と兄さんだけで乗せられた時は
驚いたけど、
車も軽い方が走るからと
翼に言われて納得した。
……走ることを考えると、
リムジンは不向きだとは思うけど。
「……良かった、な。」
兄さんが隣でぼそりと呟いた。
手術中のランプが付いて、
あの子の手術が始まったらしい。
終わるまでは不安だけど、
医者に命に別状がないと言われると
誰しもホッとするものだ。
「………………うん……。」
僕が頷くと、兄さんも目を伏せた。
その時、真田先生のあの言葉を思い出した。
仲直りの、あの言葉。
「……………こ、この前は……ごめん、なさい。」
僕が兄さんと目を合わせられずそう言うと、
兄さんがバッと僕の顔を見る。
「……!!、いや、俺の方こそ!……その、
ごめん。」
兄さんの手が、ゆっくりと、
僕の頭に触れる。
「………………俺、やっぱが
いないと、ダメみてーだ。」
悟郎と先生に怒られっぱなしでさ、と
笑う兄さんを見るのも、
撫でてもらえるのも、一週間ぶり。
「………………僕も。」
そう言って、僕も兄さんの服を
掴んで向かい合うと、
兄さんの手が背中に回り、
抱きしめてくれた。
「……………。」
「……………………。」
久しぶりに感じた兄さんの体温は
暖かくて、心地よくて、
すごく、安心できた。
僕だって、兄さんがいないと、ダメだ。
僕がまだ、子ども…だからかな。
その後、兄さんが
「……………冷てえ。風邪引く。」
と言うまで、僕らは何も言わず
お互いの体温を感じていた。