第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「もう兄さんの事全然分かんない。
いらないとかいるとか、
思ってるとか思ってないとか……
そんな事言うなんて意味分かんない!」
「こそ訳わかんねぇよ!
俺はのためを思ってやってんのに!
どうせ俺達は離れた方がいいに決まってる!」
「何それ……意味分かんない!
離れた方がいいだなんて!おかしいよ!」
「そうだろーが!
本当は俺達B6の事軽蔑してるだろ!
お前は、B6にいるべきじゃねぇ!」
「軽蔑、なんか!してない!」
「いやしてる!だから……もう
バカサイユには二度と来るな!!」
「ーーーーッ」
思わず、言葉を失った。
気付いたら周りに人だかりが出来ていることも
大声で喧嘩してる事も
気にならなかった。
僕は…
B6に……兄さんに、突き放されたんだ。
「……………………ちが……う………ッ!」
ショックと怒りが混ざり合い、
言葉が出てこない。
憤りだけが全身をぐるぐると回って
思考がおかしくなりそうだ。
「一君!喧嘩はダメよ!」
遠くで黄色い声が聞こえる。
南先生、だろうか。
「……先生?」
兄さんの気が逸れた一瞬、
僕は高ぶった気持ちを抑えられる事が出来ず
目の前にあった兄さんの手に………
思い切り爪を立て、引っ掻いた。
「ーーーッてぇ!!」
ガリ、と嫌な音がして
兄さんが悲鳴を上げる。
兄さんは僕から思わず手を離し、
同時に反対の手で、僕を思い切り投げ飛ばした
「ーーーーッ!!?」
僕は床に転がり、
直後にゴン、という
強い衝撃が頭を走った。
「…………ッ………た……」
ズキズキと頭が痛み、
思わず頭に手をやった。
「一君!!」
「!!」
南先生と真田先生の声が遠くで聞こえる。
でも、どの辺りにいるのかは分からない。
周りの人だかりはガヤガヤと騒ぎ立て、
足音がたくさん聞こえて振動が伝わってくる。
「……………ッ。」
でも、1番聞きたかった兄さんの声は、
どんなに耳を澄ませても
聞こえなかった。