第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「……………………。」
「……待ってよ。」
兄さんは黙って僕から踵を返した。
僕は慌てて兄さんの後を追う。
兄さんは呼んでも目を合わせてくれなかった。
いつもより早足だし、
付いてくるな、と言いたげで。
「…兄さん、待ってってば。」
呼んでも振り向かないなら、と
手を掴んで引っ張った。
「…………んだよ。」
兄さんはまだ機嫌が悪いのか
僕を睨みつける。
僕はどうして兄さんがそんなに
怒っているのか、全く分からなかった。
僕は、兄さんの事、
分かっていたはずなのに。
「何怒ってるの?」
「怒ってねぇよ。」
「…嘘だ。」
「嘘じゃねぇ、離せよ。」
「…ッやだ。」
兄さんが手を振りほどこうとするのを
察知してギュッと強く掴むと、
兄さんは僕を振りほどくのを諦めて
僕を睨んだ。
でも、その瞳の奥の気持ちは
僕には見当もつかないまま。
「………分からない。」
「…あぁ?」
「兄さんが何考えてるのか分からないよ。」
「…………。」
思わずモヤモヤした想いをぶつけると
兄さんは黙った。
なんでこんなに、すれ違ってるんだろう…。
どうして?
「僕の事、いらなくなったの?」
僕が思わず呟いた。
「ーーーそれは、俺のセリフだろ?」
兄さんの目に一瞬で怒りが燃えたのが
分かった。
「ーーーッこそ、
俺の事なんていらねぇと思ってんだろ!!」
僕はどうやら、いけないことを
言ってしまったらしい。
でも、僕は引けなかった。
「そんな事思ってない!」
兄さんの事いらないだなんて、
思ってるわけない。
こんなの、黙っていられるわけなかった。
「思ってるだろ!」
「思ってない!!」
「思ってる!」
「思ってないってば!!!」
「ーーーーッうるせぇ!!!!」
兄さんが痺れを切らして、
僕の首根っこを掴んだ。
僕はつま先立ちで、
ギリギリ足がついている程度だ。
苦しいし、離してほしい、でも。
僕は兄さんから引く気は無かった。