第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
今日の帰りはたまたま瑞希が
迎えに来なかった。
と言うより、学校に来ておらず、
家で冬眠だ、と寝ているらしい。
瑞希らしいな、なんて思いながら
1人で渡り廊下を歩く。
「…………おーい、草薙!」
「……………?」
遠くから声をかけられて、振り返ると
クラスメイトが手を振って近寄ってきた。
「今日もバカサイユなのか?」
「………うん。」
「あのさ、良かったら一緒に帰らないか?
今から勉強会するんだけどさ。
お前頭良いし、教えて欲しくて。」
「なぁ、ハンバーガーくらいなら
奢るからさ。頼むって!」
「……あ、……いや、……えっと…。」
…………僕はB6が大好きで、
とても大切だった。
B6がいるから、今の僕がいる。
それは、分かっていた。
B6を大事にするなら、
バカサイユを選ぶべきだし……
以前の僕だったら、
行かない、と即答していただろう。
……でも、最近のClassAの雰囲気は
変わりつつあって。
僕はクラスメイトの事を信用しつつあった。
だから、その誘いは素直に嬉しかった。
B6以外の人で、そんなこと言ってくれる人、
今までいなかったから。
「何?嫌なのか?」
「……その……嫌じゃないんだけど。」
僕がなんて答えようか迷っていると、
「………………あっ、」
突然、クラスメイトの表情が変わる。
「草薙先輩…だ…。」
その言葉に振り向くと、
兄さんが複雑な表情で立っていた。
兄さんはゆっくりとこちらへ歩いてきて、
怯えるクラスメイトを睨みつけた。
「……俺が…、なんだよ。」
クラスメイトがビクリと背筋を凍らせたのが
僕にも分かった。
「じゃ、じゃあな草薙!!」
「勉強会はまた今度!」
恐れをなしたクラスメイトは
その場を走り去っていく。
僕がそれを見送ってから兄さんを見ると、
兄さんは眉間にシワを寄せたまま
寂しそうな目でクラスメイトの影を
睨んでいた。