第11章 12月『聞こえなかった兄の声』
「草薙、おはよ。」
「あ……うん。……お、おはよう。」
文化祭が終わって、少ししてから。
僕は、少しだけクラスメイトに
話しかけられるようになった。
ヒソヒソと話すこともなくなり、
嫌がらせもパタリと止んだ。
「草薙君。ここって分かる?
私、どうしても分からなくて。」
「……………あ、えっと、その……。」
「あ、ごめん。嫌だったかな?」
女子も文化祭前日のアレを見てから
気を使ってくれている。
………それなら話しかけるなよ、って
思うけど、どうしても話しかけたいらしい。
でも、こうやって距離をとってくれたり、
申し訳なさそうにしたりしてくれるのは
有難いから……。
「いや、えっと………ごめん。
……の、ノートとか……だったら。」
「ありがとう!借りるね。」
僕も断るのが申し訳なくなって、
ついつい了承してしまう事が増えた。
窓を見ると、枯葉も落ちきった木々の間を
ひゅるると冷たい風が吹いていて。
そこを通る街ゆく人はコートに
マフラーを羽織って
寒そうに体を縮こませて歩いている。
もうすっかり冬だな、
なんて思いながら窓を眺めていられる
つかの間の平和な日々。
そんな、ある日の事だった。