第10章 11月『王子様の超越』
女子は僕の首筋にハンカチを押し当てた。
横髪や額にも優しく当てていき、
汗を拭き取っていく。
僕はそのまま、黙っていた。
「………確かに、去年よりは
だいぶ進歩したよな。
体育祭にも出たし、クラス会議も出るし。」
「そうそう。去年は文化祭も
サボって来なかったのに。」
「あ!そうだったな。
オマケに卒業式まで休んでさ。
聞いたら海外行ってたって言うから、
ビックリしたよ、俺。」
「あはは、今ではわりとよくある話だよね。
B6と草薙君が海外に行くなんて。」
「……………。」
クラスメイトが僕を見て笑っている。
でもそれは、僕を馬鹿にして
笑ってるのではない。
「………ま、昨日みたいに
舞台で台詞が止まっても、
小人も白雪姫もいるし、
助けてくれるだろ。」
「そうよ。草薙君…頑張って!」
そこに送られたのは
頑張る僕への応援の言葉とエールだった。
「…………あり、がとう……。」
僕がそういうと、
クラスメイトはまた安心したように笑った。
不思議なことに、
先程の不安と恐怖は
すっかりと無くなっていた。
話しているクラスメイトは
ほとんど会話した事の無い
同じ教室にいるだけの存在なのに。
こんなにも心が動かされるものなのだろうか。
『ああ、白雪姫!
どうして死んでしまったんだ!!』
ああ、出番だ。
ついに来てしまった僕の出番。
深呼吸をして目を瞑る。
瑞希に教えて貰ったおまじないを口ずさむ。
観客は動物、観客は動物、観客は動物…………。
「……………行ってくる。」
「頑張れよ、草薙!」
明るすぎるくらい眩しい舞台へ
僕は一歩足を進めた。