第10章 11月『王子様の超越』
「……なんか、俺のも結構凄いんだけど。」
真田先生のも生クリームのタワーがある。
きっと、ホットケーキには
チョコかいちごのソースが
まんべんなくかけられているのだろう。
「…………食べるか。」
「…………はい。」
どこから食べればいいのか分からない
ホットケーキにフォークを持った。
大体半分くらい食べ終わり、
胃もたれが心配になってきた頃。
真田先生がぼそりと呟いた。
「あのさ、……劇、どうだった?」
「………………まぁ、なんとか。」
「……そっか。良かったな。
……本番前、ガチガチだったから
心配してたんだよ。」
「………………たしかに、
…死にそうでしたけど…。」
文化祭の劇は、
僕にとって一世一代の大勝負だった。
なるべく観客の事は考えないように
したものの、
練習と違う臨場感に何度も押し潰されそうに
なった。
「………でも………。」
「ん?」
「…少しだけ分かった気がします。
僕が………緊張する理由…。」
「………そ、そっか!そうか!」
真田先生は、
生クリームのついたフォークを片手に、
パァッと明るく笑った。
……なんか、真田先生が太陽に見える………。
眩しい真田先生から目を離して、俯く。
「………………。」
下を向くと、
まだ生クリームが残るホットケーキが
あるわけで、フォークで生クリームを掬うと
真っ白か生クリームは軽い足取りで
フォークの上に乗った。
「克服出来たか?」
「まさか。
嫌は嫌でしたが、…なんていうのかな。
……いい勉強になりました。」
「そっか。…とりあえず、
一歩前進、だな。」
真田先生がうんうんと頷く。
真田先生は僕にもっと
前に出てほしいのかな。
………そんなタイプじゃないのに。
話が出た事で今日の劇の事が
一つひとつ鮮明に思い出された。
「…………………。」
僕は生クリーム塗れになった
ホットケーキを1口食べながら
その思い出に浸る事にした。