第10章 11月『王子様の超越』
「………先生、それ、」
「!
やっぱここにいたんだな。」
僕がキッチンから出て声をかけると、
真田先生は嬉しそうに笑った。
……上機嫌みたいだ。
「お前だけ教室にカバン置きっぱなしだから
渡しとこうと思ってさ。ほら。」
「………わざわざ、どうも。」
会釈だけしてカバンを受け取る。
裏に置いてこようとすると、
南先生が僕を引き止めた。
「良かったら、君も
真田先生とお茶したら?
手伝ってくれたし、
お代はサービスするわよ。」
「…ああー……。」
今の上機嫌な真田先生とは
あんまり絡みたくない。
うるさそうだし。
「……いや、僕…喉乾いてないので………」
傷つけないように
やんわり断ろうとすると、
兄さんがお盆を持ってきた。
「ー?
これタイマー鳴ったけど、
どうすんだ?飲むか?」
ティーポットに、2つカップを乗せたお盆を、
近くのテーブルに置く。
うう、その置き方、
まるで二人分みたいじゃないか!
「なんだ!君、
ちゃんと準備してたのね。
さ、真田先生座ってください。
君も、座って。」
「あ、ホント!?そんなつもりで
来たわけじゃないけど、
じゃあ、お言葉に甘えて……。」
「……………いや、あの…僕は…。」
「いいから、ほら!座って座って!」
ニヤニヤして真田先生が座り、
僕も勝手に座らされた。
「……あー、先生?の奴…」
「さ!一君!ケーキの
準備しにいきましょう!二人分ね!」
「……あ、おい!押すなって…!」
頼みの綱の兄さんも、
南先生に引っ張られていってしまった。
南先生……結構強引なんだね。
無自覚なのか、なんなのかしらないけど。
「………はぁ。」
真田先生は嬉しそうに
紅茶のポットを見つめている。
…………仕方ない、か。
「……………紅茶、お好きですか。」
「あ、うん。普通に飲むけど。」
「………じゃあ、淹れます。」
ティーストレーナーを
カップに置いて、2杯注ぐ。
ベルガモットの香りが
テーブルの上に舞って
僕達を包んだ。
……一流品だ。