第10章 11月『王子様の超越』
「那智!お前はもう少し先輩を敬え!」
軽く笑う那智に対して、
慧君が怒り口調で言う。
静かな体育館裏に、慧君の声が響いた。
「…………え?なんで?
先輩、4つ上なのに
俺より小さいし、可愛いし、いいじゃん。」
「〜〜ッ!!
……草薙先輩、言ってやってください!
那智が!いかに失礼な事を言っているかを!」
那智が火に油を注ぐような事を言って、
慧君がさらに声を上げた。
周りを見るが、まだ誰にも見つかっていない。
………うう、怖いな。この兄弟。
「…えっと……慧君……。
もう少し静かにしてくれるかな。
僕、本当はここにいるの内緒なんだ。」
「これは……ッ大変失礼しました。
申し訳ございません……!」
慧君が90度ピッタリの角度で
腰を折って頭を下げる。
慧君、那智とは大違いだ。
僕が言うと、小声で呟いた。
顔は本当に申し訳なさそうで、
少し慌てている。
……僕の一言一言に、影響されすぎだ。
きっと、那智だったら、
『まぁまぁ先輩。
大丈夫だって。このくらい。』
とか言いそうなのに。
……出来たら那智ほど崩した関係じゃなく、
慧君よりも固くなりすぎない関係が
先輩としてはやりやすいんだけどな。
………見てる限り、無理だろうけど。
「……ところで…何の用なの?」
「先輩の劇見たら、
慧がどうしても会いたいって言うから
出待ちしてたんだよ。
ま、俺も会いたかったからいいけどさ。」
「………慧君が?」
慧君の方を見ると、
真剣な表情で僕を見ていた。
………うう、なんだこの視線。
そらせないくらい真っ直ぐだ。
「あの、今日の劇、
本当に感動しました。草薙先輩は
凄く凛々しくて、美しかったです。
あの劇の中で、1番輝いていました。」
「………はぁ、どうも。」
慧君は淡々と僕への総評を述べた。
僕を褒め称える言葉が
一つひとつ添えられていて、
なんだかむず痒い。
「………あ、握手、
していただけませんか?」
「…………え、あ、うん。
僕で良ければ……はい。」
「ありがとうございます!!」