第10章 11月『王子様の超越』
「…うわ…草、凄い…。」
裏口を開けると、雑草がたくさん生えていた。
一応上だけ制服は着たものの、
下は青く光る衣装だし、髪も顔のメイクも、
さっきのままだ。
僕が出たら、誰かくらいは
分かってしまうだろう。
「………よし。」
外に出てみるが、人影ひとつ、見当たらない。
これなら出れそうだ。
「せーんぱいっ」
「ーーーッ!!?」
外に1歩踏み出したところで、
後から声をかけられる。
しまった、見つかった…!?
慌てて振り向くと、
短いふわふわとした茶髪が揺れた。
あ……この制服、中等部の……。
「…………な……那智?」
「正解!俺の事、覚えててくれたんだ。」
那智はへらっと笑う。
前と違うのは服装が普段着か制服かの
違いくらいで、
那智は初めて会った時と同じように
軽く僕に挨拶をした。
「…………驚かせないで。」
「あははっごめんね。
先輩に会いたかったから…ついつい。」
那智と会うのは1ヶ月ぶりくらいだろうか。
会ったのは、あの時暴漢に会った以来だ。
その時、那智の後に、別の茶髪が揺らめく。
………あれ?
「……後ろ、誰かいるの?」
………よく見ると、那智の後に誰かいる。
誰だろう。背格好は那智そっくりだ。
「ああ、紹介するよ。
俺の兄貴で………」
「お、お疲れ様です、草薙先輩ッ!!」
那智が言い終わる前に
ガサガサと草を踏む音と共に、
那智と瓜二つの顔の少年が出てきた。
心做しか声は上擦っており、
背筋はピンと伸びている。
「……お疲れ様。……えっと、誰…?」
「も、申し遅れました!
僕は、方丈慧です!!
那智とは双子で、僕が兄でしてっ!!」
「……………ああ、君が…。」
那智がこの間初めて会った時に、
双子の兄がいるような事を言っていた事を
思い出した。
顔は那智にそっくりだけど、
性格は正反対というか………、
おかしいくらいに僕に敬意を払っている。
「………アハハ、兄さん固すぎ。
そんなに緊張しなくても、
先輩は優しいから大丈夫だよ。
ね、そうでしょ?せんぱいっ」
「…………まぁね。」
那智が僕の肩をポンポンと叩く。
中二のくせに、僕より背が高いなんて
見たくないし見ないぞ。