第10章 11月『王子様の超越』
「…………観客、随分減ったわね。」
「仕方ないよ。俺達が最後だし、
みんな教室に戻って、
最後の仕上げをしてるんじゃないか?」
僕達が準備に入る頃には、
観客は1/3くらいに減っていた。
しかも何故か、女子ばかり。
その中には先程僕の写真を
撮ろうとしていた女子もいる。
………嫌だなぁ。
「、大丈夫か?体調は。」
「……思ったより平気です。
瑞希のおまじないが効いてるのかも。」
「………斑目?
まぁ、なんでもいいけど、
ヤバかったら言えよ?」
「…はい。ありがとうございます。」
瑞希のおまじない………
観客を全員動物にしてしまう、
というのはとても良い案で。
僕の緊張をかなり和らげてくれている。
動物なら、僕の言葉を
素直に聞くだけだし、
追いかけても来ないし、
写真も撮られないし。
「………全員動物、動物、動物。」
僕は心の中でまたそう念じながら、
出番を待った。
「『ああ白雪姫、
どうして死んでしまったんだ!』」
………ついに、この時が来た。
…僕の出番だ。
深呼吸をして、
光の射すステージへ躍り出る。
観客が一斉に僕の方を見た。
「………………ッ、」
落ち着け、僕。
大丈夫。観客は動物、観客は動物………。
「『……おお、なんて美しい姫なんだ。』」
そう言って、僕は白雪姫役の女子に近づく。
女子も少し緊張しているようで
顔が強ばっていた。
「………………………。」
この子も、緊張してるんだ……。
この子は主役だ。
明日は本番だし、緊張………するよね、そりゃ。
どうにか緊張、解してあげれないかな。
そういえば昔、僕が緊張して震えていると、
兄さんがよく、僕のおでこに
キスしてくれたな。
それで、なんだか安心できたっけ。
「………………ちゅっ」
兄さんの真似をして、女の子の額に
触れるだけのキスをした。