第10章 11月『王子様の超越』
「………成程。
確かに、去年の君の話し方を見る限りでは
問題は多数存在するようですね。」
先生に事情を説明すると、
二階堂先生は去年の公民の授業を
思い出しながら呟いた。
「……………すみません。
台詞は少ないんですが、
どうも上手くいかなくて。」
「…例えば、どう上手くいかないのですか?」
「…声が小さいとか、です。」
「成程。おそらく君は、
この台詞の意味を
しっかり理解出来ていないのでは?」
「……台詞の…意味とは?」
「…これはあくまで落語、としての
考えですが。
例えば、『このうどん、美味い』という
台詞があったとします。
『美味い』と言ってるということは、
その人はうどんを食べている事になります。
つまり、その人の目の前にはうどんがあり
それをすすっていることになります。
ここまでは良いですか?」
「…………はい。」
「つまり、君の台詞にも同じ事が言えます。
君は王子として、この世で最も美しい姫と
運命的に出会います。それも一目惚れで
結婚したいくらい美しい姫です。
そして、その近くには城があり、
君は姫を招待しようとしている。
これを踏まえて台詞を言わなければ
ならないのではないでしょうか。」
「…わかりました。」
二階堂先生はとても親身になって、
僕の台本を見ながら真剣に解説してくれた。
ただ、話が長すぎてなんとなくしか
分からなかったけど、もういいや。
このままいると、二階堂先生の話し方が
移ってしまいそう。
「またいつでも聞きに来なさい。」
「はい。ありがとうございました。」
ぺこり、とお辞儀をしてその場を去る。
次は…教室にいるかな。