第9章 10月『王子様の憂鬱』
「あ!おはよう草薙!」
「…先生。」
「もおはよう!」
朝、兄さんと2人で校門をくぐると、
たまたま真田先生に会った。
「よぉ、真田先生!
昨日より元気だな!」
「…はぁ?お前、昨日学校来てないから
会ってないだろ?」
「……あれ?そうだっけか。」
「………………。」
………兄さん、動物園で見たテナガザルと
真田先生を間違えてる。
………言わないでおこう。
「もしかして、俺に似た人を
見かけたとかじゃないか?」
「……あー、そうかもな。多分。」
兄さんが首を傾げるが
しっくり来ないようだ。
………まぁ、テナガザルは人間じゃないしね。
似てる人というより、
似てるサルの種類、のが近いし。
「ま、いいけどさ。
、机に昨日のプリント
入れといたからちゃんと見とけよ。
今日も授業で使うからな。」
「…はぁい。」
生返事をする。
まぁ、見るだけ見ておこう。
授業中当てられたら、嫌だし。
「あ!一君!!!」
後から呼ばれて振り向くと、
ピンクのスーツがこちらに
走って向かってくるのが見えた。
………南先生だ。
「あ、先生じゃん!はよっす。
ランニングか?」
南先生は息が上がっていて、
ゼーハーと必死に呼吸をしている。
何か、あったのかな。
「一君、大変なの!!」
「……どうしたんだよ、ケッコー変えて。」
「……あのな草薙。血相変えて、だぞ。」
「え?だってコッコさんが
ケッコーを変えて来るって言うじゃん。
違うのか?」
「違うし。コッコさんって誰だよ!」
「………南先生、何かあったんですか?」
兄さんと真田先生の寸劇ともいれる
ツッコミを無視して、南先生に話を戻す。
南先生は息を整えながら
途切れ途切れに話した。
「じ、実は…昨日のクラス会議で、
ウエイターの衣装決めたんだけど、
翼君が、どうしてもウエイターは
嫌だって言ってて!!
今日も言ってみたんだけど、全然ダメで…!」
「……ああ、そんな事ですか。」
「…そ、…そんなことって……!?」
聞いてから拍子抜けした。
そんなの、有り得ない話じゃないし。