第9章 10月『王子様の憂鬱』
兄さんに南先生を任せて校舎に入る。
靴を履き替えて後ろを振り向くと
道の真ん中で南先生が騒ぎ、
兄さんがなだめているのが見えた。
その姿に、
昨日のうさぎさんの一言が僕の頭を過ぎる。
「……女子、…か。」
兄さんは、誰とでも仲良くなれて、
女子にも優しい。
対して僕は、女子が大嫌いで
喋るだけでも顔が強ばる。
兄さんが僕よりも
記憶力が無いなら、
僕は兄さんよりも
コミュニケーション能力が無い。
「………………。」
あまりにも明快に
自分の欠点を叩きつけられ、
頭がボーッとした。
いつか、兄さんに恋人が
出来たら……
そう考えると、
祝福したい気持ちと
なんだか少し寂しい気持ちが
混ざり合う。
「………なんかあの2人、
どっちが先生かわかんないな。
なんちゃって、あはは。」
駆け足で隣まで歩いてきた真田先生が
苦笑いして2人を見る。
「……兄さんに教師は無理です。」
「そうなんだけどさ。冗談だよ冗談。」
真田先生が僕を見て苦笑いする。
やっぱり、いつかは兄離れ……しなきゃ。
そんなことを考えながら、
僕は教室に向かった。
「あ、待てって。」
隣のオマケと一緒に。