第9章 10月『王子様の憂鬱』
「………そういえばさ、」
お昼の10時頃。
僕は家政婦さんの作った遅めの朝食を食べ、
兄さんとリビングのソファーで
テレビを見ていた。
昔の昼ドラの再放送が写っている。
どうせ最後に崖に行くんだろうなと
思いながらぼんやりと見ていた。
「俺達のクラス、
文化祭で喫茶店やる事になったんだ。
B6の皆でウエイターするんだぜ。」
「ウエイターって、もしかして…
翼もやるの?嫌がるよ、絶対。」
「………ゲッ、そういやあそうだな。
また説得しに行く時、
一緒に行ってくれねえか?」
「うん。」
「サンキュ。」
兄さんがホッとした顔をする。
去年の事、思い出したのかな
去年も兄さんのクラスは喫茶店をやって
翼が猛反発したんだよね。
仕方なく、翼の家でウエイターをするように
頼み込みに行って、
その時に瑞希やキヨと一緒に
僕も連れていかれたんだった。
あの時はB6の皆とはほぼ初対面だったから
ほとんど喋れなかった。
その上兄さんと一緒に行ったのは
瑞希とキヨ。どう考えても最悪の布陣。
せめて悟郎でも連れていったら
女装とかメイクとか、スキンシップで
ゴリ押しできるのに。
今だったらちょっと考えられないな。
「のクラスは何やるんだ?」
「劇だよ。……白雪姫。」
「へぇ、いいじゃん劇!
俺、見に行くから………っても、
は小道具か。
出ないなら見に行っても仕方ねぇな……。」
「…………………う、……。」
僕は思わず口ごもった。
もし小道具だったら、
どんなに良かったことか。
「………ん?違うのか?」
兄さんが首を傾げる。
僕は俯いて小さい声でボソボソと喋った。
「………王子様の役…になった…。」
「………え、」
「………嫌だけど……決まっちゃった。
最悪……だよね。」
兄さんをちらりと見上げると、
兄さんの顔はパァッと明るくなった。
「………マジか!!!」
「……わわっ」
肩をがしりと掴まれて、
揺さぶられる。
首がガクガクして痛い。