第9章 10月『王子様の憂鬱』
「…なんだその格好は。一体何があった?」
「そ……れは…………。」
僕がそう言いかけると、バタバタと後ろで
慌てて走る足音がした。
クラスメイトが僕らから走って
逃げていくのが見えた。
七瀬先輩がギロリとその走り去る後ろ姿を
睨みつけ、呟いた。
「…まさか、お前、」
「……っくしゅん。」
言いかけた言葉をかき消すように
僕がくしゃみをまた1つした。
……寒い。
……段々、手が凍るように
冷たくなってきた。
「……着替えるのが先か。
道順教えろ。乗せていってやる。」
「………え、でも。」
「いいから、さっさと乗れ。」
「………はい。」
四の五の言わずに後に乗せられて
七瀬先輩がバイクのエンジンをかける。
「ちゃんと掴まってろ。」
「……でも、七瀬先輩の服、
濡れちゃいますよ。」
「…人の事を気にしている暇があるなら
もっと自分の事を気にしろ。」
「……………ごめんなさい。」
七瀬先輩は僕のこの状況を
全てお見通しらしい。
僕が謝ると、フンと鼻で笑われて
バイクは走り出した。