第9章 10月『王子様の憂鬱』
「…………ッ、さむ、」
季節は朝晩が冷え込む秋。
風がびゅう、と拭いて濡れた
僕の体を冷やした。
…………早く、帰ろう。
「……………。」
無言で鞄を持ち直して
公園を出る。
また落とされる前に
さっさとここを出よう。
後ろではパシャパシャと
携帯のシャッター音が鳴っているが
気にしていられない。
「…………っくし、」
公園の前の道路に出て1つくしゃみをする。
着替えのジャージは、一昨日ゴミ箱に
捨てられていたから使えない。
このまま帰るしかない。
「………風邪引きそう………。」
ポタポタと髪から雫が垂れ、
前の視界を遮られる。
それでも歩かなきゃ家にはつかない。
周りの人は
僕を見てヒソヒソ話をしている。
それを見てまた後ろにいる
クラスメイトの笑い声が聞こえた。
そして、それと同時に
バイクのエンジン音が
僕の隣に止まった。
「……………お前、草薙の…。」
「……………?」
顔を上げると、長い赤髪の男が
バイクに跨って僕を見ていた。
………あ、確か名前は……
「…………七瀬…瞬……、先輩?」
取ってつけたように、先輩、なんて。
失礼かなと思ったが、彼の興味は
別にあるらしい。