第9章 10月『王子様の憂鬱』
(回想 視点)
「馬鹿じゃねーの、
筆箱もノートもないのに学校に来てさぁ!」
「そうだそうだ!上靴だってないくせに。」
「それでもClassAかよ!!
さっさと地獄に落ちろ!!!」
「…………………。」
筆箱もノートも上靴も。
全部君達が取ったくせに。
帰りの登下校の道。
兄さんが先に帰ってしまって、
僕は1人で帰路についていた。
2人ほど、僕を茶化しに付いてきているけど。
コイツらはただのクラスメイトだ。
「……なんとか言えよチビ!!」
「やめとけよ、コイツの兄貴は
後輩の足を折った野郎だぜ。
コイツだってそうに決まってるじゃん。」
「そうだったな!この暴力男!!」
ギャハハ、と下品な笑い声が僕の隣から
聞こえる。
「……………………。」
兄さんが、暴力を振るはずないのに………!
心の中でそう思いながら、
僕はこんな馬鹿な奴等を振り切れずにいた。
1度だけ、コイツらと口論になった事がある。
でも、担任は……教師は先に
喧嘩を売ったコイツらではなく僕を責めた。
それから、僕はこんな嫌がらせに
口を開くのを諦めたんだ。
いつか、終わるはずだ。
兄さんのストリートファイトも、
僕のこの嫌がらせも。
全部、我慢していれば、いつかきっと………。
「聞いてんのかって聞いてんだよチビ!!」
「………!?」
体を急に持ち上げられ、
外に思い切り投げ飛ばされた。
体の軽い僕は宙に舞い、
地面に落ちる。
バシャン、と音がした。
ううん、地面じゃなくて水面だったかな。
「ギャハハ!!!」
「濡れてやんの!」
「ざまぁみろ!!お前なんか
池で溺れて死んじまえ!!!」
僕が投げ飛ばされたのは
公園の池だった。
腰ほどの高さしかない手すりを見る限り
僕はあそこから落とされたらしい。
「………………ッ」
上から下までびしょ濡れになってしまった。
濡れた重い体を起こし
なんとか池から上がった。