第9章 10月『王子様の憂鬱』
スタジオまでの一本道を
那智と歩く。
「それでさ、慧がね………。」
「そうなんだ…。」
那智には、双子の兄がいて、
名前は慧というらしい。
那智は彼の事を気に入っているようで
ニコニコ笑って話す姿はとても嬉しそうだ。
「先輩は、兄弟いないの?」
「……兄が1人いるよ。」
「へえ!先輩のお兄さんか。
どんな人?」
「………動物好き、かな。」
なんて説明すればいいかな。
実はとても頭が悪くて、
道端でストリートファイトをしてます、
なんて言ったら那智、ひっくり返るだろうな。
そんな事を話しているうちに
スタジオが道沿いに見えてきた。
もうすぐだ。
瞬、まだやってるかな。
「……………シュン。
君、来なかったけど…
大丈夫なのか?何かあったんじゃ……。」
「……斑目の家からここまで少しあるが、
歩いてこれる距離だぞ。そのくらい平気だ。」
「でも、さん
結構ちっちゃいッスよ?
誘拐とかされたらどーするんスか…。」
「アンタ達、あの子どもの事心配してるの?
シュンが良いって言ってるんだから
いいじゃないの。」
「…でも…………。」
入口にヴィスコンティの皆が見える。
僕は走り出して、瞬の目の前に出た。
「………ッ瞬、おまたせ。」
「………遅い!!」
瞬の眉間にググッとシワが寄る。
やっぱり怒られちゃった。
「…………ごめんなさい。」
「…………まぁいい。帰るぞ。。」
「……うん。」
瞬に手を掴まれて、一緒に
バイクの方へと歩いていく。
ちらりと振り向くと、
那智がスタジオの入口で手を
振っているのが見えた。
「………那智、バイバイ。」
僕も手を振り返すと那智が微笑んだ…気がした
「………?さっさと乗れ。」
「うん。ありがとう、瞬。」
「…気にするな。いつもの事だ。」
僕にヘルメットを被せて、瞬は
バイクのエンジンをかける。
「行くぞ。」
「うん。」
瞬の体に手を回す。
もう夕日はとっくに落ちていて、
暗い夜道をバイクは飛ぶように
駆け抜けていった。