第9章 10月『王子様の憂鬱』
「……結構可愛い顔してるじゃん。
この子、俺が貰っていい?」
「はぁ?コイツ男だぜ。
趣味悪すぎじゃねーの?」
一応聖帝学園の制服を着ていたからか、
男として認識されたらしい僕を
スキンヘッドがギロリと睨む。
「関係ないって。性別は愛を越えるかも
しれないし。」
「うげぇ……好きにしろ。
俺は先行くからな。」
「あぁ。」
スキンヘッドは吐き気がしたらしく
その場から去っていき、
その場には俺と青年だけになる。
「………………………。」
今からでも逃げ出したいくらいだけど
青年の目からは逃げる事が出来ず、
僕は黙って青年の様子を伺った。
「………………ふぅ。
……君、聖帝の子でしょ?
こんなとこ来ちゃ駄目だよ。
奴等にとって、
君みたいな子は恰好の餌なんだから。
ほら……手。」
「……………へ?」
思わず腑抜けた返事をした。
目の前に差し出された手は
僕を立たせるためのものらしい。
もっと酷い事をされるんじゃないかと
思ったけど、違うみたいだ。
青年は固まる僕の手を掴み、
力任せに引っ張って立ち上がらせた。
「大丈夫?さっき、そんなに痛かった?」
「…え、あ。大丈夫、です。」
「………そっか。なら良かった。」
僕のくしゃくしゃになった髪を
優しく直してくれる。
さっきのスキンヘッドの人の
仲間みたいだったけど……。
いい人、なのかな。
………いや、そんな訳ない。
こんな所にたむろしている
人なんて、悪い人に決まってる。
「………………。」
「……アハハ、そんなに睨まないでよ。
俺もこう見えて聖帝だから、
助けてあげようと思っただけだって。」
僕がググッと睨むと青年は笑った。
「……聖帝?……貴方が?」
こんな人、いたかな。
こんな綺麗な顔立ちだったら
B6と同じくらい目立ちそうなのに。
「………その顔、疑ってる?
ほら、生徒手帳。」
「………………。」
僕が黙っていると、
青年が鞄から生徒手帳を出してきた。
「…………方丈……那智?」
「そうそう。それが俺の名前。
那智でいいよ。」